「牧水・短歌甲子園」伊藤 一彦

「牧水・短歌甲子園」伊藤 一彦

 社会人として生きていくのに、自己を表現する力と他者を理解する力はきわめて大切であろう。日向市で昨年から始まった「牧水・短歌甲子園」は若い人のそんな表現力・理解力をより豊かにしてもらおうというイベントである。予選を突破した九州・沖縄の十二校が今年は出場した。

 対戦は各校三人で一チームの団体戦である。それぞぞれがあらかじめ与えられた「題」にしたがって詠んだ歌を発表し、六人で自由に討論する。その後、審査委員が勝ち負けを判定する。審査委員は『サラダ記念日』で有名な俵万智さんなど三名。大会の二日間、高校生の若々しく新鮮な歌と、大胆でのびのびした意見は、会場の人たちを大いに魅了した。

 大宮高校は昨年、準優勝だった。今年は優勝をめざして奮闘したが、惜しくも決勝リーグに進出できなかった。わが後輩の作品はなかなか優れていたと思う。来年の第三回大会を期待したいと思う。大宮生の今年の力作を引いておこう。


・冬の朝始発電車を待ちわびてかじかむ手のひら君と合わせた    木下莉穂

・君のためクラスでひとり朝七時笑顔と「おはよう」準備している    野崎浩亜

・どの部屋も酸素不足であるならばマッキンリーに行って叫びたい    川崎瑞季



伊藤 一彦

宮崎県宮崎市生まれ、在住。宮崎県立宮崎大宮高等学校、早稲田大学第一文学部哲学科卒業。学生時代に同級の福島泰樹のすすめで短歌をはじめ、「早稲田大学短歌会」に入会。三枝昂之らと知り合う。 大学卒業後は帰郷し、教員のかたわら作歌活動を続ける。郷土の歌人若山牧水の研究者でもあり、若山牧水記念文学館長、「牧水研究会」会長を務める。同会が編集する『牧水研究』の第8号は2011年に第9回前川佐美雄賞を受賞した。 1996年、歌集『海号の歌』で第47回読売文学賞詩歌俳句賞。2005年、歌集『新月の蜜』で第10回寺山修司短歌賞。2008年、歌集『微笑の空』で第42回迢空賞を受賞。2010年、歌集『月の夜声』で第21回斎藤茂吉短歌文学賞を受賞。2009年より読売文学賞選考委員。 堺雅人は宮崎県立宮崎南高等学校での教え子。堺は牧水を愛読するなど文学的に多大な影響を伊藤から受けており、現在も恩師と慕っているという。2010年には共著『ぼく、牧水! 歌人に学ぶ「まろび」の美学』を刊行した。