「総会のあとで」杉谷昭人

「総会のあとで」杉谷昭人

 フランスのニオール市を訪れたことがある。ここはフランスにおける生活協同組合運動の拠点のひとつとして長い歴史をもち、皮革産業の中心地として知られた街である。

 大きな工場のなか、ワイヤーに吊された牛の皮が次々と目の前を流れていく。ときたま皮の一部をかなりひろく切りとられたものがまじっている。案内役の工場長という人にたずねると、あれは社員が自分の奥さんへのバッグとかを作るために、年に2回とか回数を限ってOKしているのだという。

 同行の者、みな「うーん」と声をあげてしまった。日本なら、即日クビにちがいない。しかし、それがお国柄というか、文化のちがいというものなのだろうか。憎めない話である。

 弦月同窓会総会や同期の同窓会(私は大宮6期生だが)に出るたびに、私は20年前のこのニオールでの体験を思い出す。どうにもうまく説明できないのだが、宮崎という街、(宮中・宮女)大宮という学校、このさして広くもない場所に連綿と受け継がれてきた伝統のもつ「なつかしさ」の本質とは何だろう。

 「杉谷くんの言葉の感覚には独自の面白さがある」と励ましてくださったのは、数学の後藤賢三郎先生だった。数学の論理的思考は私の身にはつかなかったが、それに代わるもの、いやそれ以上のものを私のなかに見出してくださったのだ。学校が人間をつくることができる――そういう時代がたしかにあったのだ。

杉谷 昭人

1935年、朝鮮半島生まれ。敗戦後、宮崎市に引揚げ。宮崎大宮高校、宮崎大学学芸学部卒。
高校在学中より詩作をはじめ、神戸雄一、谷村博武、渡辺修三らに師事。
1958年、本多利通らと詩誌「白鯨」「赤道」に拠る。
1991年、第5詩集「人間の生活」にて第41回H氏賞受賞
2008年、第9詩集「霊山」にて第36回壷井繁治賞受賞
2010年、詩「広すぎる食卓」にて2010東京詩祭賞受賞

1993年、宮崎県文化賞(芸術部門)受賞
1997年、詩論集「詩の起源」にて第7回宮日出版文化賞受賞
現在、鉱脈社にて書籍の編集に当たる。宮崎日日新聞にて文芸月評「紡がれることば」執筆