「靴箱とぶどう畑」青木賢児

「靴箱とぶどう畑」青木賢児

 あけましておめでとうございます。

 お正月をいかがお過ごしでしょうか。新年の行事はいろいろありますが、年始の世界的イベントで最大のものは、46ヶ国に衛星中継されて、4億人が視聴するという、ウィーンフィルの「ニューイヤーコンサート」ではないでしょうか。

 軽妙なウィンナワルツを中心とした世界最高のサウンドには、日頃クラシック音楽を聞かない方も耳を傾けるという「お化け番組」になっています。この演奏会の舞台となっているのが、「ムジークフェラインザール」(ウィーン楽友協会ホール)として知られるウィーンの名ホールです。

 このホールはステージを正面にして、長方形の空間に1600の客席が並んでいます。このような四角い縦長の箱状のホールを、靴箱になぞらえて「シューボックス型」のホールといいます。これに対して、ベルリンフィルが拠点としている「フィルハーモニー・ホール」は、カラヤンの設計で「ワインヤード型」のホールといわれ、指揮者を囲むようにして客席がぶどう畑のように広がっています。通常、演奏中の指揮者はおしりしか見えませんが、ぶどう畑型では席によって指揮者の表情を正面から見ることができます。いかにもカラヤンらしい発想だという人もいます。

 しかし、音楽を聴く立場からすれば、ホールの形はどうあれ音響の善し悪しが重要です。イスラエルフィルの大指揮者ズービン・メータは、数年前にアメリカのテレビで世界のホールの品定めを行い話題となりました。メータの意見では、世界で最も音響のいいホールはスペインの「サラゴサ市民ホール」。日本のホールでは、東京の「サントリーホール」と札幌の「キタラホール」、そして日本の南の島にある虫眼鏡で見なければ見えないほど小さな町にある「アイザックスターンホール」をあげています。

 南の島は九州のことであり、虫眼鏡の町は宮崎のことです。メータはメディキット県民文化センターの「アイザックスターンホール」がすっかりお気に入りで、日本に来る度にイスラエルフィルを引き連れてやって来ます。アイザックスターンホールは、ウィーンの「ムジークフェライン」をモデルにして設計されているので靴箱型です。メータは、こんなにいいホールに恵まれて、宮崎の人たちはラッキーだとよく話しています。

 毎年秋の大宮高校「弦月祭」では、アイザックスターンホールを借り切って、全校32クラスによる合唱コンクールを開催しています。国際級のホールで、シューボックスいっぱいにこだまする歌声を聞いていると、戦後間もない頃、まだバラック校舎時代の自分が思い出されて、信じられないほどの時代の落差に圧倒される思いがします。

青木 賢児
(宮崎県立芸術劇場名誉館長、大宮高校同窓会会長)

1932年宮崎市生まれ、1951年宮崎大宮高校卒
1957年東京大学仏文学科卒、NHK入局、1982年NHK報道番組部長
1991年NHK専務理事(放送総局長)、NHK交響楽団理事長
1996年宮崎県立芸術劇場理事長兼館長、宮崎国際音楽祭総監督
受賞歴、日本新聞協会賞、宮崎日日新聞特別賞、宮崎県文化賞、新日鉄音楽賞特別賞

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