「災害」伊藤 一彦
東日本大震災のあと、災害に対する関心が高まっている。そして、災害を語り論じた本がたくさん出版されている。読まれた人も多いと思う。私も保立道久・成田龍一監修『日本列島2000年史』(朝日新聞出版)、安田政彦著『災害復興の日本史』、(吉川弘文館)山折哲雄・赤坂憲雄著『反欲望の時代へ』(東海教育研究所)、髙山文彦著『大津波を生きる』(新潮社)などを読んだ。それらを読んで先ず思ったのは、今の日本人は災害に対する警戒心が弱いということである。なぜ弱いか。
『日本列島2000年史』のなかで、東大の吉見俊哉教授がこんなことを言っている。ー戦後は伊勢湾台風などをのぞき大きな災害はほとんどなかった。日本の近現代史で、この50年間は特異な時代だった。まれに見る平和な時代であり、成長の時代だった。それが当たり前だと思っていた。そして、1995年の阪神・淡路大震災、オウム真理教事件を転換点にして、平和で豊かな時代の崩壊が始まったと。
そんな崩壊がはじまっても、大方はまだのんびり構えていたように思うが、一昨年の東日本大震災、そしてその後のさまざまの自然現象は容易ならぬ時代を私たちが生きていることを教えている。最近の宮崎人の会話に「このごろ台風も来なくていいね」といった言葉を聞くが、決して心をゆるめてはならないだろう。
伊藤 一彦
宮崎県宮崎市生まれ、在住。宮崎県立宮崎大宮高等学校、早稲田大学第一文学部哲学科卒業。学生時代に同級の福島泰樹のすすめで短歌をはじめ、「早稲田大学短歌会」に入会。三枝昂之らと知り合う。 大学卒業後は帰郷し、教員のかたわら作歌活動を続ける。郷土の歌人若山牧水の研究者でもあり、若山牧水記念文学館長、「牧水研究会」会長を務める。同会が編集する『牧水研究』の第8号は2011年に第9回前川佐美雄賞を受賞した。 1996年、歌集『海号の歌』で第47回読売文学賞詩歌俳句賞。2005年、歌集『新月の蜜』で第10回寺山修司短歌賞。2008年、歌集『微笑の空』で第42回迢空賞を受賞。2010年、歌集『月の夜声』で第21回斎藤茂吉短歌文学賞を受賞。2009年より読売文学賞選考委員。 堺雅人は宮崎県立宮崎南高等学校での教え子。堺は牧水を愛読するなど文学的に多大な影響を伊藤から受けており、現在も恩師と慕っているという。2010年には共著『ぼく、牧水! 歌人に学ぶ「まろび」の美学』を刊行した。