「カッパドキアに思う」青木賢児

「カッパドキアに思う」青木賢児

 「命の授業」という、小学生のための勉強会があります。これは、日野原重明さんが主宰する「新老人の会」が行っている、老人世代が若い世代に命についてメッセージを伝える授業です。

 私は「新老人の会宮崎支部」の活動として、今年の3月と7月に宮崎市内の二つの小学校で、「人が生きてきた道」という題で文明発祥の地である中近東の古代遺跡の話をしました。これは今から40年ほど前に、NHKの特集番組「未来への遺産」で取材した5つの遺跡について、取材の苦労話なども交えながら人類の生きてきた歴史の跡をたどったものでした。この中に、トルコの世界的遺跡カッパドキアがありました。

 私たちがカッパドキアを訪れたときには満足な交通手段もなく、首都アンカラからおよそ300キロを車で行くしかありませんでした。まる一日かかって着いたギョレメという村には、街道筋のトラックの運転手のための宿しかなく、夜は一晩中南京虫との戦いでした。

 この高原地帯には降り積もった火山灰が浸食されて、キノコやタケノコ状の岩山が林立して、世にも不思議な光景を見せています。キリスト教徒が4世紀ごろにここに住みつき、円錐形の火山灰の岩山をくりぬいておよそ300の教会をつくりました。カッパドキアという地名は紀元前6世紀にさかのぼるといわれ、「美しい馬の土地」という意味です。

 人っ子一人いなかったカッパドキアは、その後ユネスコの世界遺産にも指定されて、今ではイスタンブールやアンカラからの定期航空便もあり、高級国際ホテルが並ぶ世界的な観光地になっているといいます。

 「命の授業」で、小学校の子どもたちは宇宙人の住家のような光景に驚き、カッパドキアという地名を面白がってすぐに覚えてくれていました。

 ところで、つい一か月ほど前のことになりますが、観光客でにぎわうカッパドキアから日本人観光客の悲報が伝えられました。小学校でカッパドキアの地名が人気だっただけに、こどもたちがこのニュースをどう受け止めただろうかと気になっています。

青木 賢児
(宮崎県立芸術劇場名誉館長、大宮高校同窓会会長)

1932年宮崎市生まれ、1951年宮崎大宮高校卒
1957年東京大学仏文学科卒、NHK入局、1982年NHK報道番組部長
1991年NHK専務理事(放送総局長)、NHK交響楽団理事長
1996年宮崎県立芸術劇場理事長兼館長、宮崎国際音楽祭総監督
受賞歴、日本新聞協会賞、宮崎日日新聞特別賞、宮崎県文化賞、新日鉄音楽賞特別賞