「晴読雨読」杉谷昭人

「晴読雨読」杉谷昭人

 今年の1月で79歳になった。たまに街で出会う旧友や知人は、私の本好きを知っていて、「晴耕雨読の身分ですね」と言ってくれるが、本は本でも私はまだ現役の編集者として出版社で仕事をしているので、なかなか「晴耕雨読」とはいかない。出版の相談、預かった原稿の編集やゲラの校正と、いわば「晴読雨読」の毎日である。

 ただ現役といっても、さすがに年齢には勝てない。何よりも困るのは、小さな字が読めなくなってきた。原稿の方は、手書きにしろパソコンにしろ、まあ読めないことはないが、問題は校正ゲラ、それに辞書である。とりわけ辞書の方は知らないことを調べるわけだから、カンも経験もいっさい役に立たない。

 仕方がないので、辞書を順次、大きな活字のものに買い替えることにした。国語辞典なら「大辞泉」横組み2巻本、漢和なら諸橋大漢和を基にした「新漢和辞典」大型版というぐあいである。但し自分で買ったわけではない。クリスマス、正月、誕生日などの家内から私へのプレゼントのかなりの部分を、辞書にしてもらった。何十年ぶりかに、独和辞典まで新しいものになった。

 若い人に限らず、文字離れ、本離れが心配されるようになって久しい。しかし出版社の現場から見る限り、表現への欲求、本作りへの意欲がそう衰弱してきているようには感じられない。諸々の電子媒体による新しい表現の在り様を危ぶむ声も少なくはないが、そんな心配はいらない。表現とは、つねに新しいものを求めての試みである。

 そう考えれば、もう少しは頑張ってみたい気にもなってくる。「晴読雨読」の日々は、家内には申し訳ないが、まだ続きそうである。

杉谷 昭人

1935年、朝鮮半島生まれ。敗戦後、宮崎市に引揚げ。宮崎大宮高校、宮崎大学学芸学部卒。
高校在学中より詩作をはじめ、神戸雄一、谷村博武、渡辺修三らに師事。
1958年、本多利通らと詩誌「白鯨」「赤道」に拠る。
1991年、第5詩集「人間の生活」にて第41回H氏賞受賞
2008年、第9詩集「霊山」にて第36回壷井繁治賞受賞
2010年、詩「広すぎる食卓」にて2010東京詩祭賞受賞

1993年、宮崎県文化賞(芸術部門)受賞
1997年、詩論集「詩の起源」にて第7回宮日出版文化賞受賞
現在、鉱脈社にて書籍の編集に当たる。宮崎日日新聞にて文芸月評「紡がれることば」執筆